オペラ勧進「歌と芸術よもやま話」
2016年 09月 17日
オペラ勧進 No.98 2016年9月16日(金)
今月の一言 失意の中で出合った絵画
2003年、30年に亘って所在が分からなかった岡本太郎の名作、「明日の神話」が日本に帰って来る、というニュースが日本中をかけめぐりました。岡本太郎記念館の館長だった岡本敏子さんが、メキシコシティ郊外の資材置き場に放置されていた「明日の神話」を発見し、壁画を日本へ運ぶための再生プロジエクトチームを立ち上げて、修復を開始した様子がテレビのドキュメンタリー番組で放映され、深い感動を呼びました。
2007年7月、修復なって展示された「明日の神話」を東京都現代美術館に見に行きました。当時ヴェルディのオペラ3作品の連続上演を考えていた私は、誰もいない広い展示場で、一人、長い時間作品を見ていました。
これで行こう! 「明日の神話」を3分割し、「ナブッコ」「オテッロ」「仮面舞踏会」のチラシに使わせてもらう! そう決めて、即、行動を開始しました。
いろいろな方が親身になって動いてくださいました。しかし、岡本敏子さんはすでに他界されており、東京・大阪・広島と設置場所の争奪戦が過熱している最中の申し入れだったことから、政治的判断もあって断念することになりました。12月25日のことです。「ナブッコ」の公演まで3ケ月、なのにまだチラシのデザインが決まっていない。焦燥感がつのります。
ふと手にした画集から、「ナブッコ」の中の有名な合唱曲、「行け!我が思いよ黄金の翼に乗って」が聞こえてくるような気がしました。パウル・クレーの絵画、「花ひらく木をめぐる抽象」に描かれた色とりどりの四辺形が、ユーフラテス川の岸辺で望郷の念に駆られて歌う、囚われのヘブライ人たちの魂のように思えてきました。
作品が東京国立近代美術館の収蔵品だったことからデータの借用が叶い、一気にチラシの作成に入りました。かくしてオペラ彩公演におけるクレー絵画によるチラシの連作が始まりました。
東京国立近代美術館が2012年に、所蔵品を対象とした人気投票を一般の美術ファンに呼びかけ、上位の作品を展示しました。洋画部門で1位になったのが「花ひらく木をめぐる抽象」です。後日、山田五郎さんがご自分の番組、「ブラブラ美術館・博物館」の中で、「そんなことがあってはいけない」と意外な投票結果についておっしゃっていましたが、今でも「ナブッコ」のチラシ、プログラムは人気が高く、会場に置いてあるのを持ち帰られる方が多いのに驚かされます。
オペラ彩ヴェルディ・シリーズの第一作「ナブッコ」が三菱UFJ信託音楽賞奨励賞を受賞しました。私たちにとって「ナブッコ」は思い出深い作品となりました。
特定非営利活動法人オペラ彩理事長 和田タカ子
今月の一言 失意の中で出合った絵画
2003年、30年に亘って所在が分からなかった岡本太郎の名作、「明日の神話」が日本に帰って来る、というニュースが日本中をかけめぐりました。岡本太郎記念館の館長だった岡本敏子さんが、メキシコシティ郊外の資材置き場に放置されていた「明日の神話」を発見し、壁画を日本へ運ぶための再生プロジエクトチームを立ち上げて、修復を開始した様子がテレビのドキュメンタリー番組で放映され、深い感動を呼びました。
2007年7月、修復なって展示された「明日の神話」を東京都現代美術館に見に行きました。当時ヴェルディのオペラ3作品の連続上演を考えていた私は、誰もいない広い展示場で、一人、長い時間作品を見ていました。
これで行こう! 「明日の神話」を3分割し、「ナブッコ」「オテッロ」「仮面舞踏会」のチラシに使わせてもらう! そう決めて、即、行動を開始しました。
いろいろな方が親身になって動いてくださいました。しかし、岡本敏子さんはすでに他界されており、東京・大阪・広島と設置場所の争奪戦が過熱している最中の申し入れだったことから、政治的判断もあって断念することになりました。12月25日のことです。「ナブッコ」の公演まで3ケ月、なのにまだチラシのデザインが決まっていない。焦燥感がつのります。
ふと手にした画集から、「ナブッコ」の中の有名な合唱曲、「行け!我が思いよ黄金の翼に乗って」が聞こえてくるような気がしました。パウル・クレーの絵画、「花ひらく木をめぐる抽象」に描かれた色とりどりの四辺形が、ユーフラテス川の岸辺で望郷の念に駆られて歌う、囚われのヘブライ人たちの魂のように思えてきました。
作品が東京国立近代美術館の収蔵品だったことからデータの借用が叶い、一気にチラシの作成に入りました。かくしてオペラ彩公演におけるクレー絵画によるチラシの連作が始まりました。
東京国立近代美術館が2012年に、所蔵品を対象とした人気投票を一般の美術ファンに呼びかけ、上位の作品を展示しました。洋画部門で1位になったのが「花ひらく木をめぐる抽象」です。後日、山田五郎さんがご自分の番組、「ブラブラ美術館・博物館」の中で、「そんなことがあってはいけない」と意外な投票結果についておっしゃっていましたが、今でも「ナブッコ」のチラシ、プログラムは人気が高く、会場に置いてあるのを持ち帰られる方が多いのに驚かされます。
オペラ彩ヴェルディ・シリーズの第一作「ナブッコ」が三菱UFJ信託音楽賞奨励賞を受賞しました。私たちにとって「ナブッコ」は思い出深い作品となりました。
特定非営利活動法人オペラ彩理事長 和田タカ子
by operasai | 2016-09-17 00:52 | オペラ勧進