オペラ勧進「歌と芸術よもやま話」
2019年 09月 22日
オペラ勧進 No.134 2019年9月20日(金)
今月の一言 「智恵子抄」に寄せて
特定非営利活動法人オペラ彩 和田タカ子
智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。
衝撃的な書き出しで始まる高村光太郎の名著「智恵子抄」の「あどけない話」。切っても切れない故郷への思いを、そこまで率直に言い表した表現を他に私は知らない。
先日放映された、NHK「偉人たちの健康診断」で智恵子が視覚障害だったことを知りました。驚くと同時に、智恵子の残された数少ない絵画から、代表作の紙絵には見られない色彩への苦悩を感じていた私には、うなずけるものがありました。しかし、番組のコメンテーターが言っていたように、「あどけない話」は光太郎が智恵子を憐れんで読んだ詩だったのでしょうか。私はその逆だと思っています。芸術家は誰もが侵しがたいものを持っています。智恵子に対する憐憫の情はあったかもしれませんが、光太郎は自分とは違う世界を持つ智恵子に、憧れにも似た侵しがたいものを感じていたのではないでしょうか。「あどけない話」という題名にそんな光太郎の思いを感じているのは、はたして私だけでしょうか。
by operasai | 2019-09-22 23:16 | オペラ勧進 | Comments(0)